お行儀よく沈んでよ






どっちかひとつ選べるなら、私は山派だ。


昔家族で海水浴に行ったときに幼い私は波に流されて、危うく遭難しかけた。


浮き輪の上で手にぎゅっと力を込めて、漂う狭間で助けを求めたこと、今でも覚えている。


虫がきらい。進んで山に行こうとは思わない。だけど結局消去法で山派。


って言ってもどうせ、




「あっつ、」




ここは海の街だ。


はあ、と大袈裟な溜め息、額に滴る汗を拭う。


暑苦しく世界を照りつける太陽、他にすることないの? 暑くてほんとかなわない。


さっきコンビニで買ったアイスバーを齧った。


水っぽくて温度差に頭がぐらぐらする。冷たい。暑い。熱。




「あーつーいっ」




噛み砕いたあと、吐き出した息はたぶんソーダの匂いで。


四散する前に前髪を掻き上げる。


汗が滴る。はやく帰ってお風呂に入りたい。コンビニの袋をぐるぐる回してもう1回叫んでみせた。あつい。










< 2 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop