お行儀よく沈んでよ
◇
どっちかひとつ選べるなら、私は山派だ。
昔家族で海水浴に行ったときに幼い私は波に流されて、危うく遭難しかけた。
浮き輪の上で手にぎゅっと力を込めて、漂う狭間で助けを求めたこと、今でも覚えている。
虫がきらい。進んで山に行こうとは思わない。だけど結局消去法で山派。
って言ってもどうせ、
「あっつ、」
ここは海の街だ。
はあ、と大袈裟な溜め息、額に滴る汗を拭う。
暑苦しく世界を照りつける太陽、他にすることないの? 暑くてほんとかなわない。
さっきコンビニで買ったアイスバーを齧った。
水っぽくて温度差に頭がぐらぐらする。冷たい。暑い。熱。
「あーつーいっ」
噛み砕いたあと、吐き出した息はたぶんソーダの匂いで。
四散する前に前髪を掻き上げる。
汗が滴る。はやく帰ってお風呂に入りたい。コンビニの袋をぐるぐる回してもう1回叫んでみせた。あつい。