お行儀よく沈んでよ



「、んう、ゴホッゴホッ、」




きれいさなんてひとつもない。


感傷はどこかに流されたよう。


水面から浮き出た私はまず最初に肺呼吸を恨んだ。




「ふふ、」




余裕そうにわらう彼が憎い。


張り付いた前髪。海水がすこし冷たい。制服が、べっとりと気持ちわるい。




「保科」




本当に。




「私、泳げない」




バカじゃないのか、少年少女。




「来て」


「うん、」




海、あんなところから飛び込むものじゃない。一気に冷凍された気分だ。思考も体温も氷漬けされた。


触れた熱だけやさしいから、厭だ。


簡単に肩に掴まって頼って、だから勝手に昔のことを思い出す。




「保科、アンタってバカなの?」


「ゆきみちゃんほどじゃないよ」


「ううん、バカ。私より全然重症、手遅れ」




私は本当に泳げない。


後ろから覆い被さるような形で抱きついて、ゆっくり進み出す彼に泣き言だけを伝えた。


海が嫌い。苦しいよ。だって私、ひとりでいられない。




「ゆきみちゃんがあんまり可愛げないからさ、つい、落としてみたくなったんだよ」









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