お行儀よく沈んでよ
「……保科」
「違うって気づいたときから、俺、ゆきみちゃんしか見えねーの」
苦しい、のに、全然嫌じゃないってこういうこと、なのかなあって散々読んできた少女漫画を思い出す。告白シーン。甘酸っぱい。
シチュエーションもすべて当てはまらないくせに、簡単に苦しい。
だけどずっと、崖から飛び出したときくらい、鼓動がはやくてしかたないから。
「保科、」
「なに」
ぎゅうって、きつく抱きしめる。
「アンタってほんとに悪趣味!」
ねえ、知ってる? うちらのクラスの女子、可愛い子が揃い踏み。顔面偏差値高すぎる。
沙優ちゃんだってすっごくモテる。
ねえ、だから。悪趣味。
可愛くない上に面倒くさい私を選ぶなんて。
「最高の褒め言葉じゃん」
「はぁ、もうそれでいいよ…」
保科がわらってる気がした。
あの口端だけ持ち上げた笑顔じゃなくて、飛び降りたときみたいにやさしく穏やかな微笑み。
それがいいって駄々を捏ねた。あのとき私は、すこし息が詰まるくらい、きみしか目に映らなくて。
脳裏で鮮明に閃く瞬間を、海の温度と一緒に覚えていようと、容量オーバーの頭を軽く振った。
「ゆきみちゃん、返事」
「…今言わなきゃだめですか」
「今じゃなかったらいつ言うわけ?」
漸く足がつくあたりにきたらしい。
そのまま私の膝裏を支えて、背負う彼は、すこし蹌踉けそうに体勢を直す。
「じゃあ、 “ お願い ” 」