お行儀よく沈んでよ



見返りは後出しでいいって言っていた。
だから存分に駆使する。




「家までこのまま送って。今日着替えなんて持ってきてないし、ねむいし、つかれた」


「割に合ってないと思うんだけど」


「そもそも巻き込んだのはアンタでしょ」




すこし身を乗り出せば、わかったわかった、とやる気がなさそうな空返事。




「家、つくまで待って」


「初手で焦らしプレイとかつら」


「…下品」


「うっそでーす。頼むから引かないで」




ああでもこういうの、ちょっとたのしいかもしれない。気負いしなくていい、気遣わなくても、誤魔化さなくても。


保科といたら私、わがままな女になりそう。


あと呼吸が楽。攻防戦、繰り返してしまいそう。


きらいな海だって、私が頑張らなくても望めば引いてくれるから。


なんて。
小賢しくて堪んない。




「保科は私のこと嫌いなんだと思ってた」


「ハ? めっちゃ好きだけど?」


「照れるだろ……、その顔面でこっち見るな」




振り返る彼を阻止する。危ない。保科、顔だけは無駄に良い。その顔に騙されてきた女がどれほどいると思ってる。


まあ、全然これっぽっちも好みじゃないですけどね。


女子あるある。かっこいいとか思ってるくせに、『え? 自分そういうの考えたことないです』ってぶりっ子すんの。


いや私は違うし、フリじゃないってば。




「具体例プリーズ」


「いきなり海に道連れ、可愛くないとか悪口言われる、第一印象暴露、教室で私が話しかけると営業スマイル……、」


「ごめんね。俺の可愛い強がりだとでも思ってよ」








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