お行儀よく沈んでよ
眼が、影でまるくわらう。
頬に張り付いた髪を避ける。
「落ちてきてほしい、って願望」
ひときわ大きな波が彼の声に重なった。
「ゆきみちゃんが飛び降りたとき、うれしかったの。だってたぶん初めてだったから。笑顔じゃない、素」
波が止む。
「きみが苦しいって思うものはぜんぶ崩したいとか、ジャンプの主人公みたいに決めてみたかったわけですよ。俺の取り柄、自己陶酔だし」
「無駄にあつくて流行んないよ。もういいって、ありがと、ちゃんと理解致した」
「ゆきみちゃんは話が早くて助かる」
そんなこと言ってても、たぶん含まれてたんだろうな、嫌がらせ。わかるわそれくらい。やけにノリノリだったし。
…でもいいよ。
私だってきっと、保科の何かを踏み抜いたはずだから。おあいこ。次やったら許さないけど。
「結局私に利点はないし」
「そ? 俺はぶっちゃけ得しかねえ」
今とか特に。
と、含み笑いでまた歩き出した保科に慌てて掴まる。
「どうせ泳げない私がマジうける〜とかくだらない内容ですよねー。ハイハイ、わかってますよ」
自他認める性悪男・保科のことだ。
それくらいは腹黒く思考を弄ったに違いない。
おとなしく肩に顎を乗せる。
「んん、それもある。あれ結構きた。ここ数ヶ月イチの少女漫画シンドローム的な」
「初めて聞いたわ、そのフレーズ」
「初めて言ったもん、このフレーズ」