お行儀よく沈んでよ



似合わない語尾に思わず吹き出して、咳払い。


可愛くないなんて同じだ。


息詰まる暑苦しさも、重ねる体温の累乗も、もうぜんぶがかき混ぜられた感情を昇華してくれるなら。


可燃ごみの残りカスくらいは持って帰ってあげてもいい。たまに回収ケースの掃除をしてやってもいい。その程度で、私のこと愛してる。


それでいいでしょ、満足しろよ。


抱きしめる。


可愛くないなんて言わないで。




「でも今がいちばんかも」


「んー?」




数歩進んだ先で止まっていると、向こう側からバカ集団が個々叫びながら駆けてきている。


それをぼんやり眺める保科は、いきなり私に顔を近づけて、真剣な顔をした。


瞳、私だけが驚いて。


それで彼はふやけた表情であまく笑む。




「交際宣言でもしよっか」


「私の話聞いてましたか?」


「都合悪いことは聞き流す主義なんで」




ああそれいいかも賛成。なんて言うと思うか。


でもちょっとくらいなら牽制。私のことが好きなら離さないで。それも癪。如何にも乙女でむず痒い。


だから。




「走って逃げてよ」


「急に難題」


「褒美は両想いのキスですが、」


「そういうので釣るのよくないと思……、全然走りますけど」




抵抗はしない。


落ちていくからアンタが先に沈んでて。


できればわらっていてほしい。


保科。




「怪我したら責任とってよ、ゆきみちゃん」


「手当てくらいならお易い御用よ」




私、自分よりきっと、保科のこと。







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