お行儀よく沈んでよ
おまえが行けよ、何言ってんだよおまえから、言い出しっぺはおまえだろ、とか女々しく責任を押し付け合う男子共。それの傍らに保科はしゃがみこんでいた。
「あ、」
名前を呼べば、ゆっくりと、顔が上がる。
ちらっと覗いた黒い眼。
うわ、目ヂカラ強すぎる、とか思う、チョコレートみたいだ。
「えーっと、ゆきみちゃん」
きゅっと細まる三日月みたいな眼に、私はたぶん眉間に皺が寄った。知らんけど。
「ゆきみちゃんじゃないし」
「うん、ゆきみちゃん」
眩しそうに頷かれて、反論もバカバカしくなる。
ほら見てよ女子たち。保科は全然怖くないし、むしろボヤボヤしてるだけの不思議系ボーイだぞ。
「何見てんの」
あれ、と指を指された。海。ギラッギラしてて荒っぽい。やっぱり嫌い。私は山派だし、しょっぱいものより甘いものがすきだし。
「度胸試しって聞いたけど。保科はしないの?」
「気が向いたらしてもいーかなあ。ゆきみちゃんは余裕でしょ」
「だからゆきみちゃんじゃないって。…絶対しないし」
「ゆきみちゃんだよ。平気な顔して飛び込みそうだけどね」
私にどんなイメージを持っているのか知らないけど、保科は、デリカシーがない。