微温的ストレイシープ
あと一秒でも遅れていたら、きっと失明していただろう。
とっさの判断で廉士さんがユキノさんの手を止めた。手をひねりフォークを離させる。
床に落ちていくフォークが音を立てるより先に、ふわりとユキノさんの脚があがった。
放たれた回し蹴りを廉士さんが腕で受け流し、つづいて迫ってきた拳を手のひらで受け止めた。
「おい、ユキノ!一体どうし────」
ユキノさんの肩をつかんだ廉士さんの言葉がつまった。
その目が空洞だったから。
なにも映していない、うつろな瞳だった。
さっきまでのユキノさんからは想像できない表情。
ユキノさんが廉士さんの腕を振りはらった。
するどい蹴りが廉士さんのお腹に入り、後ろにいたわたしもろとも吹き飛ばされる。
「大丈夫か榛名」
すぐに体勢を立てなおした廉士さんはこちらを見ることもなく言った。
「は、はい。わたしは大丈夫です」
でも、ユキノさんは……
ゆらりと柳のように立つその姿は、まるで身体を乗っ取られているようでもある。
……初めてじゃなかった。
あの目は、どこかで見たことがある。