微温的ストレイシープ


耳をふさいで、どれくらい経ったのかはわからない。






「榛名」


遠くからきこえてきた声と揺さぶられた肩に、いきおいよく顔をあげた。



「大丈夫か?」


片膝をついてわたしの顔を確認する廉士さんが目の前にいた。

その顔にはいくつかの切り傷がついていて、口からは血がにじんでいる。




言葉を発するよりさきに身体が動いて、

わたしは廉士さんに抱きついていた。




「うお」

「こ、怖かった……っ」



「あー……さすがに目潰しはこえーよな」


「そうじゃなくて、このまま廉士さんが戻ってこなかったら、って……死んじゃったら、って……」



ほかにも心配することはあるはずなのに、廉士さんのことしか頭になかった。


自分のことやユキノさんのことよりも先に、廉士さんの安否をひたすらに願っていたんだ。



「帰ってきでくれで、ありがどう……」


涙こそ出てないけど、ほとんど鼻声ですがりつく。

たぶん廉士さんから見たら気持ち悪い女だったと思う。


それでも引き剥がされたりはしなかった。





「……っとに変なやつだよ、お前は」



勝手に殺してんじゃねーぞ、と。



頭に落とされたかすかな重みは、ぐいっと彼のほうに引き寄せられて。


聞こえてくるすこし速くて強い心音は
わたしのものじゃなかった。


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