微温的ストレイシープ
「すぐに追いかけたらいけるか……?」
「まあ、いいんじゃない奈緒くん」
「は?なにがだよ」
「どうせ遠くまでは逃げられないよ。あの子の体力がからっきしなのは、俺たちがよく知ってるでしょ」
「そりゃ、そうだけどよ」
はあー、と吐いた白い息はさきほどよりも濃くなっているような気がした。
『灯里をよろしくな。お前たちは兄妹なんだから』
両親とかわした約束も、10年という長い月日がたっても榛名奈緒の記憶には新しかった。
口にはしないが兄も自分と同じことを思い出しているのだろう。
こんなところで終わらせるわけにはいかない、と榛名奈緒はつめたくカサついた拳をにぎりしめる。