微温的ストレイシープ
「あ、あぶないっ廉士さん……!」
考えるより先にその名前を呼んだ。
彼は、廉士さんはちらりとわたしを見て、はじめてふっと笑った。
その笑みはなにを意味していたのかはわからないけど。
廉士さんは一瞬で、ふたたび男たちを倒してしまった。
手首をぽきりと鳴らしたあとに、地面に転がるその背中に片足を乗せる。
「わりぃな、中途半端にしちまって。ここで朝までゆっくり寝てろ」
それはわたしに向けられたものじゃなく、すでに意識がない男たちへの言葉だった。
たぶん、助けてくれたんじゃなくて、自分の獲物にトドメを刺しただけ。
痛みが治まってきた頭で、そんなことを思いながら廉士さんを見上げる。
「……おい、いつまで座り込んでんだ」
「へ、」
「こいつらと一緒にいたいならそれでいい。
……もし嫌なら、ついてこい」
今日はおぼろ月なんかじゃなかった。
彼の後ろにあるのは、
霞をまとっていない大きな満月で。
今度こそわたしに向けられたするどい瞳は、すぐにでも離れていってしまいそう。
廉士さんの気が変わらないうちに、
わたしは地につけていた手にぐっと力を入れ、立ち上がったのだった。