微温的ストレイシープ
この町の路地裏は複雑に入り組んでいて、一般人なら迷ってしまうらしい。
その“一般人”に廉士さんは含まれていないのか。
尋ねたかったけどわたしからの質問には答えてくれそうにない。
前を歩く廉士さんは、一度もこちらを振り返らなかった。
早歩きなわけではないのに気を抜けばどんどん離されてしまうのは、彼とわたしの足の長さがかなり違うから。
後ろへと流れてくる煙から逃れるように、廉士さんの真後ろから少し右へと身を移す。
「ここらだったらA中か?知らねーけど」
閑静な空間で、離れていても廉士さんの低い声はよく通る。
むこうから質問してくれたことが嬉しくて、わたしは顔をぱっとあげた。
「いえっ────」
「って、わかんねぇか。年すら覚えてないんだしな」