微温的ストレイシープ
まさか、とわたしはかぶりを振る。
「いちばん怖いのは人間ですよ」
「わかってんじゃねーか」
そしてわたしを抱えたままの廉士さんは。
遠くから何重にもなった足音を聞きながら、廃墟に足を踏みいれたのだった。
……まさか、あんなことになるなんて。
『──────廉士さん!!』
ガラスの割れる音。
夜空を落ちていくその姿。
掴むことのできない伸ばされた手。
最後に見えたのは、柔らかな笑みだった。
『お前なら大丈夫だ。……灯里』
『いやっ、やだ……やだぁっ……!』
あんな結末を迎えることになるなんて。
わたしも、廉士さんでさえも……
このときはまだ知るよしもなかった。