微温的ストレイシープ
黙っていれば忌々しそうに舌打ちをされた。
「誰がここまで育ててやったと思ってんの。役に立たないなら要らないのよ。お前にかけてやった金ぜんぶ返せよ!」
何度も、何度も拳が振り下ろされる。
殴られながらも俺の意識は手元にあった。
この手の中にある吸い殻を落とせばこの女は
さらに激怒するだろう。
そうなればさすがに面倒だ。
これ以上の面倒事はごめんだった。
「ほら。何か言ってみなさいよ。ほらぁ!はやく言えっ」
「……けむり」
「はあ?」
「けむりが、くるしい」
のちに気管支喘息になっていたことが判明するのだが、
もちろんこの頃の俺が病院に連れて行ってもらえるわけもなく。
母親も、遠くでそれを聞いていた父親も。
はっと乾いた笑いを洩らして。
ちゃんちゃらおかしいことを聞いたように、声を上げて笑いだした。
「贅沢なことを言うなよ。産んでもらっただけありがたく思え」
「そうよ。子供は親を選べないって言うけどね、親だって子供を選べないのよ」
「まあ所詮、快楽の副産物なんだけどな」
「あははっ!あんたひっどいわね。父親失格だわ」