微温的ストレイシープ


じゅっと手のひらに押しつけられたタバコ。


毎回おなじ場所に押しつけてくるのはわざとなのだろうか。



朝、昼、夜。

同じことの繰り返し。


毎日のようにドアを殴る借金取り。

たまに来てはドアを叩く児童相談所。



なにが正しくて、なにが悪いのか、もはやわからない。



日に日に限界を迎えつつある己の身が、そこにあるだけだった。





それから月日は流れ。



俺が12のときにそいつらは死んだ。


殺されたのだ。

誰にかはわからない。


おおかたヤバいところの金にでも手を出したのだろう。



経緯はどうでもいい。

結果だけでじゅうぶんだった。




そこから俺はどうやって生き延びてきたのかは、よく覚えていない。




記憶にあるかぎり近くに大人はいなかったから、たぶんひとりで生きてきた。



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