微温的ストレイシープ

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……なんでこんな話してんだっけか。



目の前を見れば、いまにも泣きそうな顔をしている榛名。


自分から話そうとしたのか、それともこいつが知りたがったのか。


なぜか思い出せなかった。



さっきから記憶を思い起こしてばかりだ。




「あー……これで、終わり」



もう話すことはなにもない。

まあ、退屈しのぎにはなっただろう。


無意識にポケットの中にあったタバコを取り出す。


もはや癖のようにライターで火をつけようとして、直前で手が止まった。




「……あの頃、心の中で散々バカにしてたのにな」



こほ、とひさしぶりに咳が出る。



あれだけつきまとっていた気管支喘息は、身体を鍛えたらすぐに治った。

強くなれば、身体にできる傷も少なくなった。




“強いやつが生き残り、弱いやつは死に絶える”


そんな簡単なことを俺はそのとき知った。


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