微温的ストレイシープ


「で、お前はなにしてんだ」

「……かける言葉がわからないんです」

「だからって胸貸すとは言ってねーし、どっちかっつーと俺が貸される側なんじゃねーの」



自分の胸のところから聞こえてくる榛名の声。




「つらかったね、とか。苦労したんだね、とか。そんな身勝手なこと口が裂けても言えない」

「今言ったよ、お前」



俺の軽口にも反応しないそいつは、代わりに背中に回していた手に力を入れた。



外から吹いてきたからっ風がほおを撫でていく。


建物の1階は荒れ果てていて、どこにも身を落ち着けられそうなところはなかった。


ここ、2階は幾分マシであり、いまも物陰の後ろにとなりあって座っている。




「榛名」


顔をあげさせる。


こいつ半べそはかくくせに、決して涙もろくはない。


いまだってほら、泣いてねーし。


鼻や頬は赤くなってるけど、それが何のせいかはわからない。




「さっきも言ったけど、同情してほしいわけじゃない。過去になんの未練もないし、いまの自分が嫌いなわけでもねーから」



着ていた上着を脱いで、その小柄な身にかける。


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