微温的ストレイシープ

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「……来てるな」



廉士さんがわたしから、視線を後方にうつした。


でも足音なんて聞こえなくて。

耳を澄ませてみても、届くのはひゅうひゅうという風の音だけ。




……ううん。聞こえる。

いま、かすかに声が聞こえた。



まるでわたしたちがここにいるのを始めからわかっているみたいに、ぼそぼそと囁くような声と、消そうとしている足音もたしかにあった。


さびた階段を踏みしめているのか、たまに甲高い音が鳴っていて。




「ここらですこし叩いておくか……」


廉士さんは腰を上げて、手首をまるで準備運動のように揉んでいる。


そして出てこうとしたから、




「だ、だめっ」



ぐいっと服のすそをつかんで引き戻した。


ちなみに上着はわたしが奪ってしまったから、いまは廉士さんのほうが薄着で。

もちろん返そうとしたけどタイミングを失ってしまった。


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