微温的ストレイシープ
「っ……」
もういちど闇へと目を落としたけど、あいかわらず廉士さんの姿は見えなかった。
「まさか、そこから飛び降りようとしているのか?止めたほうがいい。自殺行為だ」
そんな声に振りかえると、さっき階段で先頭にいたシュトリの男。
その後ろにもたくさんの人が控えていた。
冷静に話しながらも、じりじりとこちらに寄ってきている。
「そうだ。お前だけは助けてやろう。さっきほざいたことを訂正すればな、お前の命は奪わない」
……言葉と表情が全然かみ合っていない。
抑えきれない怒りの感情がまるでわたしの身体を押さんばかりにぶつかってくる。
どのみち、訂正するつもりなんてなかった。
「間違ったことを言った覚えはありません。もう一回言ってあげましょうか?あなたたちは絶対、廉士さんに……マルバスには勝てませんよ」
「このっ……クソ女が!」
伸ばされた手が届くより早く、わたしはたんっと地面を蹴った。
まさか本当に飛び降りるとは思ってなかったんだろう、男たちの驚いた顔にすこしだけスカッとした。
一瞬の浮遊感を感じながら、
ああ、わたし空飛んでる……
って大きなお月様を見上げ
──────る暇はなかった。