微温的ストレイシープ
「廉士さん。わたし嬉しかったです」
「はあ?」
「お前なら大丈夫だ、って励ましてくれて」
「……別に。そう思ったから言っただけ」
あいかわらず素っ気ない言い方だったけど、前から聞こえるその言葉にはどこかあたたかさも含まれていた。
……本当は、名前を呼んでくれたことも嬉しかった。
けれどこれは気恥ずかしくて言えなくって。
『灯里』
わたしの名前を呼ぶその声を思い出して、すこしだけ顔が熱くなった。
「う、わああ……!こんなこと考えてる場合じゃないのにっ」
「おい、なにしてんだ。しっかり走んねーとこけるぞ」
「わかって……ひゃっ!」
「言わんこっちゃねえ!」
ぐらついた身体を支えるために腕を伸ばされる。
「あーっ!いま顔見ないでぇ!」
「うるっせぇ!耳元で叫ぶな!」
静まりかえる世界に、わたしたちの声だけが響きわたる。