微温的ストレイシープ
「あの、すみません。お金がなくて……こ、これならあるんですけど……」
店員さんはすこしびっくりしていた。
そりゃあそうだ。
だってわたしが上着から出したのは、お金じゃなくてネックレスだったから。
これしかない。
でもこれでどうにかなるとは思えない。
ふふ、と柔らかく笑われる。
「担保ってことですか?」
「えと……はい。だめでしょうか……?」
自分でもなにを聞いてるんだって、思う。
たぶんわたしが店員さんだったら追い返していたけど、この店員さんは考えるそぶりをして。
「うーん」
すこししてバックヤードのほうをちらりと見やったと思えば、囁くように言ってくれた。
「本当はだめなので、今回かぎりでお願いしますね」
「い、いいんですか……!?ありがとうございます……!」
まさかオッケーしてくれるとは思わず。
手に持っていたネックレスを、店員さんへと預ける。
しゃらりと揺れるネックレスが恨めしそうにわたしの手から離れていった。