微温的ストレイシープ
どくんと胸がいやに跳ねる。
氷の入った袋に添えていた指先が、すうっと一気に冷えていくようだった。
『これか?昨日ナイフで刺されたんだよ。情けねーけどな』
虎牙さんはわたしと話す前、ひどい怪我を負っていた。
『なんか、頭いてぇ』
『はは、さっき彼氏と別れたばっかだけど……』
ユキノさんはわたしたちが来る前、付き合っていた彼氏と別れて傷心していた。
『さっき泣きすぎたせいで頭痛いし、なんか、……やっぱ、口んなか?甘ったるい……』
『いい匂いだなぁ。んん?』
『そうだ。俺たちはお前に何かをされた』
『君、なんかいい匂いするね』
心や、身体。
同じことを訴える人はみな、どこかをボロボロにしていた。
そうして一様に空虚なまなざしをしていて。
……決まって、わたしの近くにいる人ばかりだった。