微温的ストレイシープ
廉士さんは目をつむっていた。
ただ黙ってわたしの言葉を聞いていた。
その身体に、貸してもらっていた上着をそっとかける。
「っ、……ごめん、なさい」
かける言葉がつづかない。
謝ることしかできなかった。
これ以上ここにいることも、許されない。
まるで肌を突き刺さんばかりの寒風にあらがうように、一歩、また一歩後ずさる。
「わたし、……わたし、すきでした。廉士さんのことが……好きでした」
廉士さんに背を向けて走り出す。
どこまでも続く闇。
それはまるで、大きな口を開けてわたしを待ち構えているようだった。
お前の居場所はこっちだ、って。
そう、手繰られているようだった。
「ごめんなさっ……ごめんなさい……!」
……ほんとうの絶望はまだ、眠っているまま。
わたしはそのことを知らない。