微温的ストレイシープ
「奈緒、端末かして」
「……ああ」
この兄にはもう余裕がない。
それまでの飄々とした雰囲気はなくなり、険しい顔つきのまま手をつき出す。
榛名奈緒は余計なことは言わず、自分の端末を兄に渡した。
わたった端末を操作し、それを耳に当てることもなくじっと見つめている。
表示されているのは、さきほど散々痛めつけた部下たちの名前だった。
1コール、いつもならここで出ているはずだ。
しかし、
2コール、3コール……
どれだけ待っても、部下たちが電話に出ることはなかった。
「……くそ。あいつら、逃げ出しやがったね」
がしがしと頭をかきむしった榛名宇緒が顔をあげたときには、
すでに別人のように瞳が光っていた。