微温的ストレイシープ
それでもやっぱり現実はそう甘くない。
こんなときに底力がだせるほどわたしの体力はもってはくれない。
ぐんぐんと縮まってくる距離。
もう、つかまる。
背中まで迫った悪魔の手は
わたしに届くまえに光に消えた。
「……はは、まさかそっちから来るとはな。探す手間が省けたぜ」
シュトリの総長が感心するようにも、馬鹿にするようにもとれる笑い声をあげた。
ガクンと膝が下がり、よろけたわたしの腕を誰かが支えてくれる。
「……っ、うそ」
見間違いかと思った。
じゃないとここにいるはずがない。
月にかかっていた雲がさああっと薄れていく。
地面にふせて唸っているシュトリの前に立ちはだかっている、その人は。
「お前さ、人の話は最後まで聞きましょうって学校で教わらなかったわけ」
その光に照らされる彼は
──────廉士さんは。
やっぱり、ここにいる誰よりも美しかった。