微温的ストレイシープ
それどころかまるで視界に移っていないように、わたしの目をまっすぐに見つめてくる。
「あー……あとなんか言うことあったっけな。……ああ、そうだ」
「そ、そんなことより、わたしから離れてください。さっきの話、聞いてなかったんですか?これ以上一緒にいたら、あぶな──────」
次の瞬間、シュトリの間に動揺がひろがった。
もちろんわたしもびっくりしていた。
無機質なコンクリートの影もふたつ重なっている。
唇に感じる柔らかな感触は、きっと記憶をさかのぼってもこれがはじめてだった。
すこしして離れていって、
「ほら、ぜんぜん甘くない」
べ、と赤い舌を見せてわらった廉士さんの瞳には、以前のように力強い光が宿っていた。