微温的ストレイシープ
ぽたぽたと地面が濡れていく。
まるで雨がふり注いでいるように、流れているのはわたしの目からだった。
「……灯里、お前」
やっと全部を思い出したというのに。
わたしの心はちっとも晴れてくれなかった。
なんでこうも、嫌なことばかりを忘れていたんだろう。
……ううん。
そりゃあ忘れたくもなるよね。
こんなこと、誰だって忘れたいに決まってる。
忘れて、……楽になりたいに決まってる。
「わたしは逃げようとしたわけじゃなかった」
毎日おなじ空間にいるのに嫌気がさして、逃げ出したわけじゃなかった。
あの日、わたしは……
「……死のうと、していたんです」
なみだは出ているはずなのに不思議と言葉は詰まらない。
すらすらと、まるで他人の不幸話を語るかのような気持ちだった。
神様は無情だ。
こんな思いをするくらいなら、別れが惜しくなるような人と出会ってしまうなら。
はじめからひとりで死なせてくれたら良かったのに。
こんなの……あんまりじゃないか。
わたしにはこの世界に残る意味なんてなかった。
残る資格なんて、なかったんだ。