微温的ストレイシープ
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灯里が泣いていた。

いままで一度もみせなかった涙を。


こんなにもあっけなく、とめどなく流している。



その手からばさりと赤い本がすべり落ちた。




榛名灯里はそこからきた?

本の中の住人?



突拍子もなく、現実ばなれしたことを言っているはずなのに。


なぜか俺はその答えに納得がいくような気がした。

やっぱりな、と心の奥で冷静に思っている自分さえいる。



たった一晩だが、一緒に過ごしているうちにどこか感じていたのかもしれない。



灯里はこの世界の人間ではない、と。


そう思う理由はかんたんである。





こいつには、最初から



──────温度がなかった。


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