微温的ストレイシープ
「……なあ」
頬に触れる。
もう冬は過ぎたとはいえ夜は寒く、身体も冷える。
たしかに灯里も寒がっているようすは見せていた。
上着を羽織れば、すこしばかり暖かそうな顔もした。
でもこうして触れてみても、いっこうに灯里の熱を感じることはできない。
薄い紙を撫でているかのように、なんの感情もつたわらない肌だった。
きっと本人はそのことに気づいていないんだろう。
「……あるところに、榛名灯里という女の子がいました」
灯里が痛みを隠すようにそっと笑う。
「その本の1文目です。内容も、ぜんぶ頭のなかに入ってる」
「……結末は?」
俺は自分で確認しようとはせず、灯里も、足下に落ちている本に目を向けずに首を横にふる。
それが意味していることなど、考えるまでもなかった。
物語はきっと、ハッピーエンドとはほど遠い結末を迎えている。
それは痣だらけの身体をみれば明らかだった。