微温的ストレイシープ
「わがまま。のくせして変なとこで気ぃ遣うし、すぐ髪ボサボサになるし」
「わたしのこと嫌いなんですか」
「逆だよ」
それでもまだ言い足りないように廉士さんは指を折りつつ挙げていく。
「利己的か利他的かわかんねーし、いちいちうるせえ。世界が違う?本のなかから来た?それがどうした。やっと自由になれたんだろ、ならもっと喜べよ馬鹿」
「っ喜べるわけないじゃないですか……!わたしは世界を滅ぼす存在なんですよ!?ここに存在するだけで、それだけで、世界を壊すんです!!」
感情的になって相手を押し負かせようとすることが間違っていることくらいわたしにもわかる。
でも、声を荒げる自分を抑えることはできなかった。
やっと収まったと思ったなみだがふたたび帰ってくる。
どうあがいても逃れられない運命がわたしを待っているのだ。
幸いにもこの世界はまだ侵食されていない。
わたしという毒が回るまえに、すべてを終わらせる必要があった。
……なのに。
わたしの手の中にあったライターはもう炎をあげていなかった。
上から重ねられた手がすべてを包み込むようにつよく力をこめられる。
「気にしてるのはそれだけか?」
「っ、」
「その涙が答えだろ」
わかっているかのようだった。
穏やかな表情には、もうぜんぶ、わかっているかのようなぬくもりがあった。