微温的ストレイシープ
またもや出てきた“マルバス”って単語に引っかかる。
それに、当麻さんが言ってた『シュトリ』もはじめて聞く言葉だった。
「あ、あの……マルバスってなんですか?」
言った瞬間、ぴしりと空間が凍りついた。
なんだかまずいことを言ってしまったような、そんな感覚に陥る。
「本気か?」
「えっと、……はい」
今まで黙っていた男の人にすっと見下ろされ、ゆるりとうなずいた。
あれほど言い合っていた2人でさえ、大きく目を開いてわたしを見ていて。
……これ。
これ、廉士さんのときと同じ反応だ。
ふつうなら知っていることを、まるでわたしだけが知らないみたい。
もしかして、ここの人たちはみんな顔が整ってるから、アイドルとか?
地下アイドルって男性でもあるのかな。
でも────
そうはならないことを、さすがのわたしでも勘づいている。