微温的ストレイシープ
「そら見たらわかる」
はじめて笑った。
まあ、馬鹿にしたような笑いでもあったけど。
ほんのすこし警戒を解いてくれたような気がして。
わたしはいつでも逃げられるように、と一歩後ろに引いていた片足を元に戻した。
「それで?」
「それで……いろいろあって、廉士さんに保護してもらったんです。わたし、記憶なくしてて」
「記憶喪失?へえ、面白そうだな」
「いや、全然面白くないです」
男の人は、虎牙さんというらしい。
彼もマルバスの幹部で、わたしたちが話している間もずっとここで寝ていたんだという。
「そのお腹の包帯は怪我ですか?」
「これか?昨日ナイフで刺されたんだよ。情けねーけどな」
彼があまりにもあっけらかんと言ってのけるから。
刺されるってなんだっけ、とゲシュタルト崩壊を起こしかけた。