微温的ストレイシープ
「……お前、」
怖くて動けないでいるわたしの首筋を、ゆるりと捉えられる。
ゆっくりと近づいてくる顔は、まるで肉食動物が獲物を捕らえるかのようで。
あるはずのない牙が、そこに見えたような気がした。
目をかたく閉じる。
そのまま、襲われそうになったときだった。
ぐいっとわたしの身体が持ち上がった。
「こんなとこで盛ってんなよ」
すぐ後ろから聞こえてきたのは廉士さんの声だった。
ソファから、そして虎牙さんから引き剥がしてくれたんだ。
「やめとけよ。こいつ、どんな病原菌もってるかも分からねぇんだし」
……いや、虎牙さんの心配をして引き剥がしたんだ。
保菌者扱いされたわたし。
病気なんてもってません、とは記憶を失ってる手前言い切れなかった。