微温的ストレイシープ
虎牙さんはしばらくの間うつむいて頭を押さえていた。
そのうち、首根っこを掴まれているわたしを。
そしてその後ろにいる廉士さんに目を向けた。
「……犬の躾ぐらいちゃんとしとけよ、廉士」
「うるせーな。お前に言われたくねーわ」
虎と獅子のにらみ合い。
そ、そうだそうだ!とこのときばかりはさすがに言い返した。
もちろん心の中で。
「おい、女」
「へぁ、は、はい」
「悪かったな」
身体のまえで腕をクロスさせて警戒したけど、もう虎牙さんがわたしを襲ってくることはなかった。
というか、なんとか落ち着きを取り戻したみたいで。
さっきよりも瞳の色が冷めていた。
「い、いえ……大丈夫です」
そう答えながら自分の首に手をやった。
まだそこは痺れるような痛みがあったけど。
わたしももう、忘れることにした。