微温的ストレイシープ


「ここにいるのは、お前のためにもならないんだよ」



すこしだけ歩く速度を緩めてくれて、降ってきたのは優しい言葉だった。


ううん、本当はぶっきらぼうだったけど、わたしにはそれでさえ優しく聞こえた。




『今夜は危ねぇ。はやいとこ連れてってやれよ』



虎牙さんもたしかそう言っていた。



危ないのはこの場所なのか、それとも今夜かぎりのことなのか。



どちらにせよ、わたしは今の今まで“一般人”に出会っていなかった。

ここに来てから、普通の人に遭遇していない。


それが、『答え』なような気がした。




「せめて今だけお話してもいいですか?」

「お話?お前の身の上話かよ。記憶ねーくせに」



無言で歩き続けることにもすこし息が詰まりはじめていたからそんなことを提案する。

すこしとげがある言い方だったけど、おそらく拒絶はされなかったから。




「じゃあ、廉士さんのこと知りたいです。なんで暴走族に入ったんですか?」

「てめぇほど図々しい女は初めてだわ」

「えっと……ありがとうございます」


褒めてねーし、と呆れたような短い息。


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