微温的ストレイシープ


導かれるように顔をあげれば、雲の向こうにぽっかりと浮かぶおぼろ月。


綺麗だな、と思える程度には落ち着いてきた。






なんてことにはならなかった。





「た、助けてください」


さっきよりもずっと声が弱々しくなる。




もちろん、答えはノー。

舌打ちつきで返された。



「なんで俺が。迷子ならサツに頼れば」

「サツ」

「ケイサツ」




警察、もちろんその考えもあった。


でもここの地形はぜんぜんわからなくて、どこに交番があるのかなんてもってのほか。



それを伝えると彼はさらに眉間にシワを寄せて。



「スマホのナビでも使えよ」

「……持ってません」

「まぁ、だろうな」


聞く前からわかっていたような返事だった。


それもそのはず。

わたしが着ていたのは薄いワンピース一枚で、ポケットなんてどこにもないから。


< 5 / 211 >

この作品をシェア

pagetop