微温的ストレイシープ
導かれるように顔をあげれば、雲の向こうにぽっかりと浮かぶおぼろ月。
綺麗だな、と思える程度には落ち着いてきた。
なんてことにはならなかった。
「た、助けてください」
さっきよりもずっと声が弱々しくなる。
もちろん、答えはノー。
舌打ちつきで返された。
「なんで俺が。迷子ならサツに頼れば」
「サツ」
「ケイサツ」
警察、もちろんその考えもあった。
でもここの地形はぜんぜんわからなくて、どこに交番があるのかなんてもってのほか。
それを伝えると彼はさらに眉間にシワを寄せて。
「スマホのナビでも使えよ」
「……持ってません」
「まぁ、だろうな」
聞く前からわかっていたような返事だった。
それもそのはず。
わたしが着ていたのは薄いワンピース一枚で、ポケットなんてどこにもないから。