微温的ストレイシープ
けほ、とわたしがふたたび咳きこんだのを最後に、辺りは静寂に包まれる。
……他に頼れそうな人もいないし、とりあえず人気のあるところまで歩くしかないよね。
「あ、あの」
「なんだよ」
「すみません……いま何時かだけ教えてもらえませんか?」
「……あともーすこしで、24時」
そんなに更けてたんだ。
どうりで人の声が聞こえないと思った。
街自体が寝静まったような静けさに、この世に取り残されたような気持ちになる。
この場にはわたし以外もいるのに、なぜかひとりぼっちに感じてしまう。
「ありがとうございます。……えっと、ありがとうございました」
言い直したあと、ぺこりと頭をさげて立ち去ろうとしたときだった。
その頭は、あがることなく。