微温的ストレイシープ
「っはい!」
朝まででもいい。
一夜かぎりでもいい。
近づいてくる声たちに背を向けて、廉士さんは走り出した。
わたしの手を握ったまま。
迷える羊は夕陽を見ながら、思ってしまった。
ここで、朝陽を見たい……と。
走りながら、ふと自分の胸に手をやった。
そこに刺さっていたはずのナイフは、まるで最初から存在しなかったように。
煙のように消えていた。
感じるはずのないあたたかさを、
たしかにそこに感じたのだった。
──────夜はまだ、更けたばかり。