微温的ストレイシープ
プライドも自尊心もない男たちに対して、もはや怒りさえ湧かなかった。
ただの駒に人間と同様の成果を求めるのは
野暮であるとわかっていたからだ。
……榛名奈緒、は。
「ねえ、ちょっと君」
いままで黙っていた榛名宇緒が、唐突にひとりの男に声をかけた。
頭を下げていた男があわてて顔をあげる。
「は、はいっ!俺……ですか?」
「そうそう、君。今日はさ、月が綺麗なんだよ。見てごらん」
「え、でも……」
「いいからいいから。見なきゃ絶対損だよ?」
榛名宇緒の言葉に
戸惑いながらも男があごを上げて、
……その瞳が月をとらえた瞬間だった。
「どうだい?最後に見る月は」
「へ────、」
ばちん。