微温的ストレイシープ


肉がはじける音が鼓膜をふるわせる。



榛名宇緒の足がまるでボールをとらえたサッカー選手のように。

思いっきり、男のあごの先を蹴り飛ばしたのだ。




すこし離れたところで倒れる男は仰向けのままピクリとも動かない。


死んでいるのか、気絶しているだけなのか。

それはこの場にいる誰もがわからなかった。


もちろん男を蹴った張本人である榛名宇緒も、だ。



しかし、兄たちにとってそれはどちらでもいいことだった。

最愛の妹が帰ってきてくれさえすれば、あとのことはどうでもよかった。




「なぁんでちゃんと捕まえてから報告しないのかなぁ~」


口角を保ったまま、また別の男の手のひらをナイフでぐりぐりとえぐる榛名宇緒。


男は必死に歯を食いしばって悲鳴を呑み込んでいたが、額には尋常じゃないほどの脂汗がにじんできた。



それまで傍観していた榛名奈緒がさすがに止めに入る。


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