微温的ストレイシープ
「さて、奈緒くん。俺たちも行こうか」
男たちも去り、また二人きりになった兄弟。
「アテはあるのかよ」
「あるよ。言ったでしょ、手は残ってるって」
榛名宇緒がモッズコートのポケットに手を入れる。
そして「じゃーん」と取り出した端末を振ってみせた。
「それがアテ?もしもしお巡りさん、うちの妹は届いてませんかとでも電話するつもりか?」
「奈緒くんの冗談は面白くないよね。じゃなくて。GPSだよ、GPS」
「は?」
「あの子のネックレス、じつは位置情報がわかるようにしてあるんだよね」
「いつの間にそんなことを」
自分の知らない間に、この男はそんな小細工をしていたのか。
つまり、自分たちが急ぐ必要はなかった。
端末には灯里の行く先が記されるから。
それをわかっていたのにも関わらず、榛名宇緒は男たちを脅しあげ急がせたのだ。