微温的ストレイシープ

𝘪𝘯𝘧𝘰𝘳𝘮𝘦𝘳




「あたしには浮気すんなって言ったわよね!?ね!?……言ったっつーの、しらばっくれんな!!」


目の前でスマホ片手に激昂(げきこう)する、ロングヘアーの女性。



あれ、もしかして廉士さん部屋まちがえた?


目の前で繰り広げられる光景に、唖然とする。


どう見たって、これは痴情のもつれ。
ド修羅場だった。



女の人はまだまだ言い足りないのか、電話の相手……

おそらく彼氏さんを、恐ろしいほどにまくし立てている。




「っ、この……わかった、あんたが最低最悪のクソ男だってことはよぉ~~くわかったわ!あーもー時間の無駄よ。あーあこの1年無駄にした、あーあ!!別れるから。あんたとはもう終わりよ!」


まだ電話の向こうで声はしていたけど、女の人は最後まで聞かずにスマホから耳を離した。

そしてなんと。



「うるっせーくたばれ!!
ばぁーーーーーーーーーか!!!!!」



ぶちっと通話を切った女の人が振り返りざまに、それをぶん投げたのだ。



「え、ちょっ……!」


こっちに向かってくる。

しかもちょうど廉士さんの顔のとこ!!



あわてるわたしとは違い、余裕でそのスマホを受け止めた廉士さん。




「……あら?」


そこでようやく、ぼろ泣きの女性はわたしたちの存在に気づいたようで。



「ずいぶんと荒ぶってんな。ユキノ」


しゅっと投げ返したスマホはみごと女性



────ユキノさんの手のひらに戻り。




「ナイッシュー」

ずず、と鼻をすすった彼女は小さく笑ったのだった。


< 87 / 211 >

この作品をシェア

pagetop