微温的ストレイシープ
𝘪𝘯𝘧𝘰𝘳𝘮𝘦𝘳
「あたしには浮気すんなって言ったわよね!?ね!?……言ったっつーの、しらばっくれんな!!」
目の前でスマホ片手に激昂する、ロングヘアーの女性。
あれ、もしかして廉士さん部屋まちがえた?
目の前で繰り広げられる光景に、唖然とする。
どう見たって、これは痴情のもつれ。
ド修羅場だった。
女の人はまだまだ言い足りないのか、電話の相手……
おそらく彼氏さんを、恐ろしいほどにまくし立てている。
「っ、この……わかった、あんたが最低最悪のクソ男だってことはよぉ~~くわかったわ!あーもー時間の無駄よ。あーあこの1年無駄にした、あーあ!!別れるから。あんたとはもう終わりよ!」
まだ電話の向こうで声はしていたけど、女の人は最後まで聞かずにスマホから耳を離した。
そしてなんと。
「うるっせーくたばれ!!
ばぁーーーーーーーーーか!!!!!」
ぶちっと通話を切った女の人が振り返りざまに、それをぶん投げたのだ。
「え、ちょっ……!」
こっちに向かってくる。
しかもちょうど廉士さんの顔のとこ!!
あわてるわたしとは違い、余裕でそのスマホを受け止めた廉士さん。
「……あら?」
そこでようやく、ぼろ泣きの女性はわたしたちの存在に気づいたようで。
「ずいぶんと荒ぶってんな。ユキノ」
しゅっと投げ返したスマホはみごと女性
────ユキノさんの手のひらに戻り。
「ナイッシュー」
ずず、と鼻をすすった彼女は小さく笑ったのだった。