微温的ストレイシープ
パソコンの起動音。
と、ユキノさんの鼻をかむ音。
「あなた名前は?」
「は、榛名灯里です」
「どういう字?ちょっとここに書いてくれる」
渡された紙に、すらすらと自分の名前を書き記す。
返そうとしたらユキノさんは「ああ、待って待って」と止めて、
「記憶喪失か何かなんでしょ?わかってる範囲でいいから、自分のことについて書いてくれるかしら」
「なんで記憶喪失だって……」
「自分のことを調べてほしいって人、なかなかいないからね。それこそ記憶がぶっ飛んでないかぎり」
なるほど。
たしかに普通なら自分じゃなくて他人の情報をもらうよね。
納得しながらペンを動かす。
自分の年齢と兄が二人いること。
いま思い出せている情報はこれだけだった。
ユキノさんにメモを渡す。