腹ペコ令嬢は満腹をご所望です!【連載版】

「おお!」
「わあ、僕の贈ったドレス!」
「はい!」

 ミリアムとアークの元へと戻ると、お二人に満面の笑みでお出迎えして頂きました。
 着替えたドレスはアークが贈ってくれた青のドレス。
 今回も顔にヴェールは被りますが、ドレス自体は洋服に近いですわ。
 そして会場の方は盛り上がっておりますわね。
 先程わたくしが用意したアイスの試食開場が大盛り上がりで、人が列をなしております。

「お帰りなさい、クリスティア。とてもよく似合っているわね」
「ありがとうございます、エリザ様!」
「ええ、さすがうちのアークの見立てだわ。余興の方もとても素晴らしかったわよ。一部放送禁止映像が流れてしまいそうだったけれど、上手くフォローしたと思うわ。あの兵士たちにはあとで褒美を与えましょう。実によい仕事ぶりでした」
「はい! ジーン様、わたくしもそう思っておりました」

 リバース処理兵たちは大変素晴らしい仕事をしてくださいました。
 ご褒美はなにがいいでしょうね?
 やっぱりアイスにしましょうか?

「そうですわ、フィリーとジェーン様もご協力ありがとうございました」
「それは構わないわ! こっちとしてもスッキリしたし!」
「ええ! ざまぁみやがれですわ!」

 ジェーン様が未だかつてないほど生き生きした顔をしておられますわ。
 そういえばジェーン様はメアリお姉様の圧で、わたくしに挑まされていたんですわよね。
 それじゃあ今日の事でスッキリ心の整理も出来たという事なのでしょうか。
 それならそれで良かったですわ。
 ……次はわたくしですわね。

「では、ミリアム、アーク、わたくしお姉様に会って参りますわ」
「本当に一緒に行かなくていいのか?」
「心配なんですけど」
「大丈夫ですわ。それに二人がいるとお姉様の本音は絶対聞けません」
「「うう」」

 王族がいたら絶対に取り繕うに決まっているのです。
 だからお二人にはパーティーで引き続きお客様のお相手をお願いしますわ。

「まあ、あれだけ無様な姿を晒したあとで、取り繕う気力があるかどうか怪しいものですが……。クリスの事はこのフィリアンディス・プラテがしっかりとお守りしますから、お任せくださいませ!」
「私も! ご一緒します!」
「……分かった。ルイナ、クリスを頼むぞ」
「かしこまりました、ミリアム様、アーク様」

 というわけでフィリー、ジェーン様、ルイナとともにお父様たちの連れて行かれた控え室へと殴り込みですわ。
 まあ、本当に殴り合いはしないと思いますけど。
 食べ過ぎで今頃グロッキー状態でしょうしね〜。
 ……今更ながら、わたくしこんなにたくさん食べられる体質だったのですわよね。
 普通の人があれしか食べないのかとびっくりしてしまいます。
 けれど、前世のわたくしは普通の人よりも食べられなかった。
 世界には……世の中には美味しいものがこんなにあるのに……。
 いいえ、美味しいものがたくさんある事は、前世のわたくしも知っていた。
 でも病気で食べられなかったんです。
 病院の待合室にある雑誌に載っていたレシピや流行のお店の記事を見ながら、なんて美味しそうなんだろう……と思っていました。
 ああ、今ならあの世界の食べ物を……ずっと食べ歩いていられるのに……。

「お腹が空いてきましたわ……」
「えぇ、嘘でしょう? クリス……。さすがにドン引きですわよ……さっきあれだけ食べていたのに……」
「ごめんなさい、でも美味しいものを思い出していたら……」

 じゅるり……。
 ああ、美味しいもの……甘いものと冷たいものと辛いものと熱いものは食べたので、もっと他のものを食べたい。
 塩っぱいもの、素材の味が分かるもの……ああ、そうです、蕎麦が食べたい!
 擦ったばかりの山葵をちょっとだけ、出汁の利いた麺汁に溶かし、細切りの海苔が添えられた麺を少し浸してズズズっ! と……!
 おうどんでもいいですわ。
 コシのある太麺をやっぱり出汁の利いた麺汁にネギを浮かべで、それに絡めてずずずっと!
 もちろんあったか麺もありです。
 天そば天うどんなんて久しぶりに食べたくありません?
 海老天、かき揚げ、大根おろし……!
 パリパリ衣のついた、器からはみ出んばかりの大きな海老天を麺汁に浸して衣がそれを少し吸い込んだ瞬間を狙ってぱくりと!
 麺を啜り、ちょっと七味唐辛子で味変したりしながら、最後に残っていた海老天を食べるんです。
 もうその頃になれば海老天の衣は汁を啜って茶色く肥大化してグジュグジュになっている事でしょう。
 それを一口で……じゅるっと。
 でも中の海老だけはプリプリのままでその食感のギャップが——……。

「海老天蕎麦が食べたいです!」
「落ち着いてクリス! えびてんそば? なんの事か分からないけど、まずはあなたの元ご家族……特にメアリ様と話しをするんでしょう!?」
「そういえばそうでした!」
「なんでこの短時間に忘れられるのよ」

 だってぇ〜!
 思い出してしまったら、食べたくなるじゃないですかぁ〜!
 特にわたくし前世は病院食ばかりで、たまに病院の食堂で食べる海老天蕎麦はご馳走でしたのよ〜!?
 病室に運ばれてくるのはおかゆ! たくあん! 薄い味噌汁らしきスープ!
 一応おかずは日替わりでしたけれど、多分あれはたくあんではなかったし味噌汁でもなかったですわ。
 調子の良い日に食べられる病院食堂の海老天蕎麦のなんと美味だった事か!
 最期の方は点滴だけで物を食べるという事もなくなり、食に興味のなかったわたくしですら「ひもじい」と口にするような日々でしたのよ。
 病院の海老天蕎麦はご馳走でしたのよー!

「ほら、部屋に着きましたわよ」
「うう……思い出したら食べたくなりました」
「そんなわけの分からない物、どうする事も出来ないでしょう? あとになさい」
「そうですよ、お嬢様」

 怒られてしまいました〜。
 しかし二人のおっしゃる事はごもっともなんですよね。はーぁ〜……。
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