誰がための夜明け
「やめろ……ッ」


絞り出した声が喉を焼く。
一気に覚醒した視界に目を瞬かせると、野営のために焚いた篝火の光が瞳を刺した。


僕ははっとして腹の辺りに視線を向ける。もちろん撃たれてなどいない。


「寝惚けたか」


「土方さん……」


「起き抜けの男に名を呼ばれても嬉しかねぇな」


「…すみません」


どうやら居眠りをしてしまっていたらしい。
指揮官である土方さん付きの小姓とはいえ、今日の戦闘は堪えた。それで夜番を代わってから半刻もせずに眠気に誘われてしまったのだ。


ぱちぱちと薪が爆ぜて、夜空の青藍色に紅が散る。


土方さんは僕の近くにあった床几を引き寄せ、腰を下ろすと「死ぬのが怖いか」と問うた。


僕が起きた途端、傷を確認したからだろう。


「いえ、怖くて武士など務まりません。皆同じでしょう?」


「お前もか。新選組は武士になりたい奴ばかりだったからな」


土方さんは過去形でそう言った。


土方さんの思う新選組に、僕はきっといない。僕が入隊した頃には、既に俸禄に釣られて入隊して来る者も少なくなかったし、僕が入隊してから程なくして隊士たちは幕臣に取り立てられたからだ。


本当の意味で武士だった土方さんの旧友たちは時代の波に翻弄されて、その果てに散ってしまった。
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