誰がための夜明け
「鉄、話がある。いや、頼みか」


唐突に、しかし前から決めていたことのように土方さんは言葉を唇に乗せた。


土方さんの漆黒の髪が風に揺れ、澄み切った瞳が放つ眼光が僕の瞳を捉えた。


「これを日野の義兄に届けて欲しい」


土方さんが懐から取り出したのは、土方さんが写った写真とひと房の髪、手紙と思しきものだった。


「…なんですか、これ」


「見りゃ分かんだろ。俺はここで死ぬかもしれない。別にそれは構わんが、何もなしに義弟が死んだだって聞かされる義兄が不憫でな」


「受け取れません」


「なぜ」


「私はここに戦うつもりで来ました。それで命を落とすなら本望。戦線離脱など武士の恥です。」


「では命令だ。これを持って日野へ行け」


厳しい口調に口を噤む。
その気迫に負けそうになるが、納得のいかない僕は再び口を開いた。


「なぜ私なんですか」


「お前が適任だと判断したからだ」


嘘だ、と直感的に思った。


今日の戦いで軽傷だった者もいる。
怪我ひとつない自分は明日の戦闘に回るべきであるし、土方さんが自分の小姓をわざわざ遣るとは思えない。


「…私が15だからですか。私が、戦うには幼いから、力になれないから、命令なさるのですか」
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