誰がための夜明け
あなたの死を告げるようなことをしたくない、とは言えなかった。
土方さんはここで死ぬつもりだ。新選組の鬼と呼ばれた彼は、志半ばで死んでいった仲間たちの全ての遺志をその背に背負い、誰よりも苛烈な死を選ぶのだろう。


だからこそ、最期まで傍で戦いたかった。
命にかえても守りたかった。


信じてきた徳川幕府は潰れて、これから新しい時代が始まる。
それでも命を賭して戦うことが己の誠だと、あなたが教えてくれたんじゃないのか。


「命令が聞けないならばここで腹を切れ。介錯は俺がしてやる」


土方さんはそう言うと、懐から懐紙と短刀を取り出し、僕の前に放り投げた。
僕は思わず土方さんを見る。土方さんは何も言わない。ただ静かに、僕を見つめていた。


「…討死なさるおつもりですか」


「………」


「これは、あなたが生きて、無駄になったと笑って渡すものではないですか」


気がつけば僕は立ち上がって、涙を滲ませながら拳を握り締めていた。


「…これが俺の誠だ」


それに、と土方さんは目を伏せて続ける。


「老衰なんざ、近藤さんや死んだ仲間に顔向けできない」


土方さんはとても優しい表情をしていた。
それは、今は亡き局長の近藤さんにしか見せない表情だった。
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