誰がための夜明け
未来に託された想いを受け止めたまま堕ちると、彼はもうずっと前から決めているのだ。


きっと土方さんも分かっている。


この戦いが厳しいこと。
もうどうしようもないこと。
新選組が望んだ夜明けが、来ることはないということ。


分かっていて、戦うのだ。


それは道理や理屈ではなくて、信念であり、生き様であり、浅葱の隊服に身を包んだ土方歳三の魂なのだ。


「泣くな、鉄。お前だから頼むんだ」


土方さんは苦笑して、それから僕に遺品となるであろうものを手渡した。


新選組の鬼副長は意外と笑うのだと、僕はその時初めて気がついた。


「明日、五稜郭を発て」


土方さんはそう言うと立ち上がり、僕に背を向けて歩き始めた。


「市村鉄之助、仰せつかりました」


精一杯の敬意を込めて。
感謝の言葉も、別れの言葉も必要ない。


土方さんはひらりと右手を振って、陣幕の影に消えていった。
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