超人気シンガーの正体、実は高校生地味子です。
「お兄ちゃん?
私学校行ってくるよー?」
学校の用意をしてリビングに顔を出せば、ガシャガシャと皿を洗うお兄ちゃんが見える。
お兄ちゃんは手元に目線を置いたまま、心底意外だという風な返事をしてきた。
「あれ、お前…まだ学校なんて行ってんの?
めんどくさくない?」
「…せめて高校は出とけって、お母さんから言われたじゃん。お兄ちゃんだって去年やっと卒業したばっかりのクセに。」
「あー…そっか。そういやそうだったな。
────てかお前さ…ちょっとはちゃんとした格好で行けよ。」
お兄ちゃんは私の方に視線を向けて直ぐに言ってきた。
〝ちゃんとした格好〟というのは、多分というか絶対に、服装のことを言ってるのではない。
だって制服は、全く着崩してないんだから。
学校紹介のパンフレットに載れる自信がある。
お兄ちゃんが指摘するのは、寝癖がつきっぱなしでボサボサの髪と、コンタクトがめんどくさくて、代わりに掛けているメガネの事だろう。
私の髪はロングだから、自分でもお化けみたいだと思う。
「…だって、顔バレしたらどうすんの?」
「うーん、バレても別にいいんじゃねぇ?
俺、デビューから超オープンだったけどさ、全然生活には支障なかったぞ?」
「いやだ。私お兄ちゃんみたいに強烈な精神してないから。」
「ふうん…いや、でも…俺1人で結衣の可愛い顔を独占できるし………そう考えると案外……………」
なんかボソボソ言ってるけど、聞かない方がいいね。
さっさと家を出よう。
「ぶっちゃけ、めんどくさいの。
仕事以外でメイクとかに時間かけたくないもん。
じゃ、学校行ってくるから!」
「おう!
ちなみに今日の弁当は、ご飯の上に海苔で書いといたから!」
…え?
書いたって、何を……?
不穏な気しかしなかったけど、私は家を出てしまったので、もう聞けなかったのだった。