今日からキミのお兄ちゃん

「……羽那?」

「ごはん、ちゃんと、食べてる?」


10年ぶりに再会した羽那は、見違えるほど大人びている。


僕に心配されてばかりいた少女が、僕を心の底から心配しているように、見えた。


「どうした。その荷物」


羽那は、大きなスーツケースを持っている。


「ほんとはね。いっぱい手紙、書きたかったし。出所したとき。迎えに行きたかったよ」


大きな目に涙を浮かべ僕を見つめる羽那に、少女の面影を重ねる。


「でもね。大人になるまで、ガマン……してた」

「我慢?」

「昔、言ってくれたよね。わたしに『幸せになれ』って」


よく、そんなこと、覚えているな。


キミと過ごした日々は僕の中で特別なものでも、キミにとっては、いささか異色ではあっただろうが、そのあとの人生の方が何倍も特別になっていると思っていた。


それを願っていたんだ。


「幸せにしてくれる、よね?」
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